痛みってなに?
2020年に国際疼痛学会(International Association for the Study of Pain)から、
痛みの定義の改訂版が出ました。
その和訳が
実際の組織損傷もしくは組織損傷が起こりうる状態に付随する、あるいはそれに似た、感覚かつ情動の不快な体験
となります。
ここから、
①組織損傷があってもなくてもいい(どこかが傷ついてなくても痛い時は痛い)
②感覚としての不快な体験であり、かつ情動としての不快な体験が痛みである。逆に言えば、不快でなければ痛みではない。
と言えます。
自分が不快に感じて、痛いといえば痛いんです。
これは他人には理解されにくいところですよね。
また、傷があっても、不快じゃなければ痛みじゃないんです。
筋トレをして筋肉痛がどれだけあっても、
私は不快じゃないので(むしろ快感)、痛みはありません。
exercise-induced hypoalgesia
運動は生活の質を改善させますが、
痛みを和らげる効果(EIH: exercise-induced hypoalgesia)もあり、
近年注目されています。
例えば、世界中で悩みを抱える人が多い『腰痛』に対して
痛みの軽減と身体機能(脊椎可動性、筋力、筋持久力)の改善の問には関連がないとされます。
非特異的腰痛(これといった原因がはっきりしない腰痛)に対する運動療法の疾痛軽減効果は、
単純に筋骨格系の変化や身体機能の向上によるものではなく、
運動そのものに痛みを抑える働きがあることが示されています。(Steiger F, et al. Eur Spine J. 2012)
EIHは1970年代から報告があります。
まだ不明な点が多いですが、基礎研究の結果から、
オピオイドやノルアドレナリン、セロトニン、エンドカンナビノイドが関与して、
内因性疾痛調節系(自身の身体の中で痛みの感覚を抑える働き)を作動させると考えられています。(Rice D, et al. J Pain. 2019)
いわゆる「ランナーズ・ハイ」とよばれる状態も、この一種と考えられます。
この中でエンドカンナビノイド(endocannabinoid)が最も有力なEIHとして注目されています。(Koltyn KF, et al. J Pain. 2014)
カンナビノイドはマリファナ類似作用を示すものですが、
身体の中での自然なメカニズムであって、害はありません。
生物・心理・社会モデルに則った運動療法 の考え方
痛みのなかでも、特に慢性的な痛み(慢性疼痛)では、
「生物・心理・社会モデル」に則った対応が必要です。
そして、運動療法においては、
「セルフケア」(自分の力でやること)と
「アドヒアランス」(自分の意思でやること)が重要になります。
人にやらされる運動はあまり意味がないということですね。
よって、慢性疾痛に対する運動療法では、
自宅などで継続的に行えるホームエクササイズが中心となります。
ホームエクササイズとして行う具体的行動目標を設定して、
その遂行を周りが支援することでアドビアランスを高め、
セルフケアが可能となります。(Andrews NE, et al. Arch Phys Med Rehabil. 2012)
セルフケアの注意点が以下になります。
・安全かつ達成可能な範囲で運動や身体活動の負荷量を増やす
・運動や身体活動はあらかじめ決めた内容を守り、調子が良くてもやり過ぎず、調子が悪くても減らさない
・活動レベルは痛みによって決めるのではなく、前もって決めた行動目標(時間や運動の回数によって規定される)に基づいて決める
・運動や身体活動を増やすことが難しいと感じたときには達成可能なレベルまで行動目標を以前のものに戻すことを行う。また、そのように行うように事前に取り決めを行ってお く。
・適切な身体活動レベルの目標を設定し、達成していく過程で、痛みではなく、自分自身で活動をコントロールできるようになることをゴールとする.
要点としては
- 続けること
- 目標達成するその『過程』をコントロールできること
が、疼痛緩和につながるということで、
痛みをとるためといって、がむしゃらに頑張ることが正解ではないのです。
自己肯定感を持ちながら、続けることが痛みの緩和につながります。
おわりに
ずっと痛みに悩まされている方は、
そこから抜け出すために自分で達成可能な運動目標を設定し、
そして、続けましょう。
痛みから開放されるために、自分が出来ることがそこにあります。